大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和54年(ウ)32号 決定

申請人 八代秋昌

主文

本件文書取寄の申請を却下する。

理由

本件申請の要旨は、被上告人が賃借権の存在を仮装している事実を証するため、山形地方検察庁米沢支部から被疑者大木五郎外一名に対する不動産侵奪罪被疑事件記録の一部の取寄を求めるというにある。これを申請人が本件上告事件につき提出した上告理由書の記載と対照するときは、申請人は、被上告人が賃借権を有するとした原判決の事実認定を不満とし、その認定を覆えす証拠を提出する目的のもとに本件申請に及んだことが明らかである。

しかし、民事訴訟法第三九四条は、上告は判決に憲法違背があるか又は重大な法令違反があることを理由とするときに限りなしうる旨を規定し、同法第四〇三条は、原判決が適法に確定した事実は上告裁判所を拘束する旨を規定しているので、これらの規定によれば、上告裁判所は、職権調査事項につき調査する場合を除き(同法第四〇五条)、原判決の事実認定の当否を調査するために自ら証拠調をすることを得ないものと解すべきである。したがつて、原裁判所の事実認定に関して上告裁判所に対し更に証拠調を求めることを目的とする本件文書取寄申請は不適法であつて、却下を免れない。

ところで、民事訴訟法第三九七条は、上告状は原裁判所にこれを提出すべき旨及び上告状に対する審査等の権限は原裁判所の裁判長がこれを行うべき旨を定め、同法第三九九条は、上告が不適法であつてその欠缺を補正しえないものであるとき、上告理由書が所定の期間内に提出されないとき又は上告理由の記載が所定の方式に違背するときには、原裁判所が上告を却下する決定をすべきものと規定し、また民事訴訟規則第五三条は、上告状又は上告理由書が所定の方式に違背するときは原裁判所が決定をもつてその補正を命ずべきものとしている。これらの規定によれば、上告事件について上告の提起及び上告理由の提出が適法であるか否かは原裁判所がこれを審査し、不適法であるときは原裁判所が上告を却下して、これらの適法要件の具わつた事件のみを上告裁判所に送付すべきものとされている。したがつて、右の諸規定の趣旨によれば、上告事件につき、原裁判所がこれを受理して自ら却下し又は上告裁判所に事件を送付するまでの間に、これに附随する申立等がなされた場合においても、その申立等が不適法であるときは、原裁判所がこれを却下する裁判をなすべきものと解すべきである。

よつて、本件文書取寄申請は上告受理裁判所である当裁判所がこれを却下すべきであるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大和勇美 裁判官 桜井敏雄 裁判官 松永剛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例